世界が認める茶づくりのために
1954年、「鹿児島茶を日本一のお茶に―」という、強い信念から創業した下堂園。その志は実を結び、現在では「走り新茶」として名高い「ゆたかみどり」を鹿児島随一の銘茶に育て上げ、全国生産面積第2位の茶処として、日本各地で愛される鹿児島茶の製造と販売を続けています。
1992年には「鹿児島茶を日本から世界へ」という目標を掲げ、鹿児島茶の魅力と美味しさを世界中の方々へ届けるために海外への販売を開始します。しかし、輸出をはじめた頃、大きな壁に突きあたりました。それは、ドイツ残留農薬規制の厳しさです。さらに、世界のお茶市場の目が有機栽培茶に向けられていることも知り、私たちは鹿児島茶のクオリティーはそのままに安全性にもこだわった、海外のオーガニック検査基準さえクリアーするお茶づくりを行おうと決意します。
その後すぐに、契約農家の人々と協力をしながら有機栽培茶の栽培と製造に着手し3年後にようやく、世界で最も厳しいといわれる「ドイツオーガニック認証」を取得しました。
この経験が有機栽培の難しさと魅力を実感する学びとなり、認証取得から3年後に設立した海外支社「下堂園インターナショナル」から世界のニーズに応える鹿児島茶を販売するためにも、当時前例のない茶商による自社農園の開設へ意欲を高めていきました。そして、創業から半世紀の時を経た1998年の春、茶商として積み上げてきた信頼をそのままに、鹿児島茶の未来を見据えた新たな挑戦として、農業生産法人「ビオ・ファーム」を設立します。
神殿の地で茶の声を聴く
南九州市川辺町神殿―。美しい自然に包まれたこの地は、平安時代に川辺氏が守り住んだ台地を山々が囲み、古来石清水として知られる湧水に恵まれた豊かな大地。そこに広がる7ヘクタールの「ビオ・ファーム」では、現在すべての畑で有機栽培と無肥料自然栽培による茶栽培が行われています。
3月の下旬になれば新芽の”ほうかむり“が取れ、みずみずしい茶葉が顔をのぞかせ、足元を見れば植物たちが我も我もと春の光を求めて背を伸ばし、虫たちも忙しそうに飛び回ります。植えている茶木は「ゆたかみどり」を筆頭に「ゆめかおり」「やぶきた」「するがわせ」「はつもみじ」「べにふうき」、地域在来種などを合わせて12種類。畑の中で多種共存させることで病虫害を防ぎながら、個性あるお茶づくりが進められています。また、山間部に茶畑があることで平地に比べて日照時間が少なく、光合成が抑えられることで葉が薄く広く育ち、良質な茶葉が育まれます。
なかでも難しいとされる無肥料自然栽培に着手したのは、設立から8年後。「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんとの出会いがきっかけでした。農薬は一切使わず肥料も与えず、下草の除草もしない。畑を自然の状態に近づけ茶の木の生命力に委ねる農法は、剪定をはじめ、人の手をどこで貸すべきかを模索する日々の連続です。しかし、この農法から作り出されるお茶は、体の細胞一つひとつに染みわたるような、強く深く、やさしい味わいを生み出します。
この地に息づく命の恵みが、一杯のお茶を通して結ばれることを願って。ビオ・ファームではこれからも、茶、人、自然が互いに向き合う、世界に誇る鹿児島茶づくりが育まれていきます。